Sincerely's Blog

フェミニズムについて、ゼロから学んだことのメモ。

言葉とジェンダーについて読んだ本3冊

前回図書館で借りてきた本を返したついでに、「ことば」とジェンダーに関する本を数冊借りてきたので、読書録を兼ねて紹介。

「私、文章を書いたり翻訳したりする仕事をやっているんですが、無意識に性差別を助長するような言葉遣いをしていないか不安なんです。そういったことを学べる本はありますか?」と司書さんに尋ねて、以下の3冊を紹介してもらった。

 

きっと変えられる性差別語―私たちのガイドライン

きっと変えられる性差別語―私たちのガイドライン

  • 作者: 上野千鶴子,メディアの中の性差別を考える会
  • 出版社/メーカー: 三省堂
  • 発売日: 1996/04
  • メディア: 単行本
  • クリック: 6回
  • この商品を含むブログを見る
 

発行年が古いので、今ではあまり大手メディアでは見かけなくなった言葉(「マドンナ議員」「女史」「未亡人」など)も入っている。けれど、「女性◯◯」とか「美人◯◯」とかはまだ現役でいろいろなところでお目にかかるので、20年経っても変わらないところは変わらないんだなぁ…と思わせられる。

 

私は、自分でも記事を書くし、他の人が書いた記事の校正を担当したこともある。その際、差別を助長しかねないような表現に遭遇しても「ん? どうなんだこれ?」と思うことはあっても、日本語として間違ってはいない場合、それを指摘することは難しかった。(特に、エラいヒトに寄稿してもらっている場合、よけい言いづらい。)

でも、この本ではそれらが「なぜNGなのか」の理由をわかりやすく解説してくれている。また、それらの差別語に対する言い換えの提案も実際的。ただ、すべてが納得できるものばかりではない。たとえ政治的に正しくとも、日本語として聞いた時に違和感のあるものは使いづらいな、と思う。英語やフランス語でもこのあたり葛藤があるようで、S/heの表記とか、女性名詞・男性名詞の併記など、それぞれ模索しているよう。

 

本の構成に関して、

「性差別しないためにはどうしたらよいかを考えるリソース・ブックである。決して、機械的に規制・排除するための差別語リストではない」

とあり、「これを守れ!」とも「これさえ守っておけばOK」というものでもない、というスタンスをとっているのが建設的だと思う。 

 

メディアで働いていた時に、「記者ハンドブック」というのは使っていたのだけれど、

性差別語に関しては、まだ業界のコンセンサスができていないなぁ、という印象があった。私自身、筆が進まない時や時間がない時は、キャッチーな言葉や耳慣れた表現でついついラクをしてしまう傾向にあるので気をつけたい。

 

翻訳がつくる日本語: ヒロインは「女ことば」を話し続ける

翻訳がつくる日本語: ヒロインは「女ことば」を話し続ける

 

今回いちばん知りたかった「翻訳から生まれる(不自然な)日本語」についての本。「女ことば」だけでなく、「気さくな男ことば(『〜だぜ』『〜さ』など)」や、方言についての分析がとても面白かった。

ヒロインのセリフに「女ことば」をあててしまう訳、私もやってました。ハイ、すみません…。海外文学とハリウッド映画で育って来た人間には、もう染み付いているのです…。 翻訳された日本語が血肉化されている私みたいな人間には、そういった言葉遣いがしっくりくる、と感じられてしまうのが恐いところ。

あとは、字幕翻訳の場合、限られた文字数の中でキャラクターや背景を伝えようとする場合に、「女言葉」「男言葉」「方言」を使ってキャラを立たせた方が読み手に親切、という場合もある。たとえば日本のアニメで関西弁を話すキャラがその言葉によって「関西出身である」という情報を付与されるのと同じように、アメリカ映画の中で南部訛りの人物が出てきた場合、そこに発生している言語メッセージ以外の情報を、字幕の中でどう伝えるかという点が本当に難しいと思う。私は方言や訛りを聞くのは大好きだし面白いので、自分が翻訳する時はその雰囲気をできるだけ残したいと思う方だけれど。

翻訳者コミュニティではこの「方言キャラ」問題はわりとよく話題に上る。「◯◯弁をどう英訳する?」というのは意見が分かれるところ。そもそもアメリカ英語だと、各地方の訛りは日本語の方言のような明確な違いはなく、発音の違いがほとんどなので、文字化するのが非常に難しいというがまずある。(地域によってモノの呼び方が違う、というケースもあるが、それも日本語ほどのバラエティはない)

ついでに、話し言葉は地域性よりもその人の社会的地位や人種を表すことが多いので、うかつな訳をすると誤った印象を読者に与えかねない。なのであえて方言を訳さず、スタンダードな英語にする、という人が多い。英語で吹替えされている日本のアニメを見ても、方言をはじめ、お嬢様言葉やハカセ言葉も普通の英語に訳されている。

この本の中で取り上げられている、「風とともに去りぬ」の使用人の英語を東北弁(らしき訛り)の日本語に訳しているケースなんて、今やったらかなり問題になりそうだ。

あとは、「気さくな男言葉」の例が地味に面白かった。確かに「そんな喋り方する人、いる?」と思う。今度から翻訳をする際は、「言葉によるキャラ付け」がどこまで必要なのか、よく考えて訳したい。

 

ジェンダーで学ぶ言語学

ジェンダーで学ぶ言語学

 

 

最初の2冊が言葉や言い回しと言葉遣いの例を考察するものだとしたら、この本はそれらの言葉を生み出している背景に、より深く突っ込んだ内容。各章が専門の方による解説なので、様々な角度から考察されていて興味深い。「マンガ」「ドラマ」「恋愛小説」「オネエ言葉」「ていねい言葉」など、ふだん当たり前だと捉えていた言葉遣いに、「言われてみれば、不自然かも」という光を当ててくれる。

そこから「どうしてこうなったんだろう?」という背景を説明してくれる内容になっている。ただ、各章は短めでサワリだけという感じなので、やや詰め込み気味というか、走っている印象を受ける。言語学のジェンダー論的側面を網羅的に知りたい人には良い入門書だと思う。最初に上げた2冊よりは少し硬めな内容。

 

以上3冊、どれも面白かったし非常に参考になった。

いうまでもなく、差別語や差別表現はなくすべきだし、ポリティカル・コレクトネスにも配慮すべきだろう。ただ、言葉はどんどん変わっていくものだし、それを「完璧に」コントロールしようというのは無理な話だと思う。言葉の使い方を強制することは、突き詰めれば思想の統制につながる恐れもある。1984的世界のように。

 

それが、僕たちが生きてる世界さ。そうじゃないかい?(気さくな男言葉)